雨夜くんは黙っている。無表情のまま、微動だにせず口を結んでいる。
おばあさんは、そんな雨夜くんをじっと見て。息を吸い込んで、先を続けた。
「わたしはね。このことを知ったとき……涼には絶対に話すもんかって、思ったんだ。涼が傷つくだけだと思ったし、涼を置き去りにしたあの子は相応の報いを受けるべきだ。誰が会わせてやるもんか……ってね。でもね……いざ死ぬかもしれないという状況になってみたら、考えが変わった」
一気に語ったおばあさんは、そこでいったん言葉を止めて、息を吸い直す。
「わたしが、決めちゃいけないって。選択肢を奪うのは違うと思ったんだ。……涼」
そろそろと細い手を伸ばし、垂れている雨夜くんの腕をつかむ。
「お母さんと、会う気はないかい?」
シン、と。まるでだれも存在していないかのような、沈黙が流れた。
室内は静かだけれど、わたしの内側はうるさかった。
こめかみのあたりで血管がドクドク鳴っていて、その発信部である心臓は暴れている。
わたしでもこんな状態なんだ。雨夜くんは……。
「……れが……」
心配に思ったとき、かすれた声が、沈黙をやぶった。