死ぬ。その言葉にぞわっと、心臓の裏を撫であげられたような寒気が走る。

どうにかしたいけれど、わたしはただ、弱々しいおばあさんを見ていることしかできなくて。


彩度を下げたくちびるが、また開く。


「もっと前に、死んだ方がよかったのかもしれないね。そしたらーー」

「そんなこと言うなよ」


病室に、雨夜くんの怒りをはらんだ声がひびいた。

すごくかたい、強めの声だった。驚いて、ビクッと肩を縮めてしまう。


雨夜くんの声は、いつもやわらかくておだやかで。

今みたいな声は、一度も聞いたことがなかった。


「……涼」


けれどおばあさんは、弱っている様子ながらも、雨夜くんの声にひるむことはなかった。

真剣な顔で雨夜くんを見て、口を開いて訴えかける。


「本当に、いつ死んでもおかしくないんだ。だからね……今、お前に伝えとかなきゃならないことがある」

「なに……」

「お前の、母親のことだ」


その瞬間。ただでさえ冷えていた室内の空気が凍って、ビキッとひび割れたように感じた。

雨夜くんの、お母さん。前に聞いた〝蒸発〟という単語が、頭の中に大きく浮かぶ。