おばあさんが、ゆっくりと力なく、こちらに首を回す。


「涼……それから、永田さん」


名前を呼んで、ほほえんでくれる。

でもその瞳にはまだ、前に会ったときのような輝きは戻っていなかった。


「……ごめんねぇ。体力戻さないとって、ちょっと散歩に出てみたらこれだよ」

「無理してしゃべらなくていいよ。とりあえず、ゆっくり休んで」


いたわりの言葉をかけた雨夜くんに、おばあさんはゆるりとまばたきをしてみせる。


緊張は遠のいたように思えた。

けれどその後、急速に場の空気がひりついた。


「わたしはもう……長くないかもしれないね」

「……っ!」


おばあさんが次に出した声が……すごく、弱々しいものだったから。


「……なに言ってるの」


室内に落ちたマイナスな言葉を追い払うように、雨夜くんが笑って言う。


「ただの貧血だったんだ。少し休めば大丈夫ーー」

「本当だよ」


それでも冷えた温度は、一向に上がらなくて。

おばあさんの声も、憔悴したままだった。


「今日は貧血かもしれないけど……ちょっと動いただけでこんなになる体だ。明日死んだって、ちっともおかしくない」