血相を変えて駆けつけた雨夜くんは今、先生の話を聞きに、診察室に入っている。
カチ、コチ、カチ、コチ。待合室の大きな掛け時計はデジタルなのに、一秒一秒を意識するせいか、秒針の音が聞こえてくる気がする。
救急車なんて、はじめて呼んだ。はじめて乗った。
苦しそうにわたしの名前を呼んだおばあさんの姿が、頭を離れない。
おばあさんに、なにかあったらどうしよう。死んじゃったらどうしよう……!
ふるえながら、くしゃりと顔をゆがめたとき。
――カラリ。
「……っ!」
診察室の引き戸が開いて、雨夜くんが中から出てきた。
勢いよく立ち上がる。雨夜くんの目がこちらを向いて、そして。
「……大丈夫だったよ」
わたしのもとに歩いてきた雨夜くんは、安堵の息とともにそう言った。
「病気が悪化したわけじゃなくて……体力がかなり落ちてて、それによる貧血だって」
「ひん、けつ……」
それを聞いた瞬間。カクッと膝の力が抜けて、わたしはまたイスに座り込んでしまった。