図書館と駅は、目と鼻の先だ。
ほかに用事はないのだし、真っすぐ駅に行って電車に乗って帰ればいい。
けれど、藪内さんと別れたあと。わたしは駅とは真逆の方向に、のろのろと歩き出していた。
目的があるわけじゃなかった。ただなんとなく、まだ帰る気持ちにはなれなくて。
歩きながら、心の中を整理したかったんだ。
ーー許すことは、自分を救うこと。
さっきの藪内さんの言葉が、頭だけでなく体のすみずみまで、ぐるぐると回り続けている。
憎むことは、自分をすり減らす。苦しいから、許して手放す。
本当にそんな考え方は、今までしたことがなかった。相手のためじゃなくて、自分のために許す、なんて。
でも……そんな考え方があると知っても、やっぱりわたしには無理だ。
だって、どうしてひどい事をされた方が、傷つくと知りながら過去に向き合って、相手を許してあげなきゃいけないの?
そんなのズルすぎる。有り得ない。
そう思う。思っているけれど……。