藪内さんと、視線がぶつかる。

優しい瞳の中に、泣きそうなわたしの顔がうつって、揺れている。


「多分……自分のためです」


自分の、ため……?

聞こえてきた言葉を、すぐに取り込むことができずに、とまどった。


固まるわたしを前に、藪内さんは言葉を続ける。


「過去を憎んだり、どうしてこうではなかったのかと後悔したりすることは……とても、苦しいでしょう?」

「……っ」

「憎むことは、自分を底まですり減らすから。だから……許すことは、自分を救うことだと。わたしは、そう思います」


自分を、救うこと。

衝撃だった。そんなの、一度も自分の中には生まれたことのない考え方だった。


忘れるのではなくて。逃げるのでもなくて。

許す、だなんて。


「……なんて、なんだか格好つけたことを言いましたかね 」


混乱して言葉を返せずにいるわたしに、藪内さんはそんな風に締めくくった。


今日一番おだやかな笑顔が、言葉にそっと添えられる。

わたしたちの頭上でまた、木の葉たちがサワサワと音を立てた。