なのにどうして……藪内さんは、こんなにおだやかなんだろう。
なにもかもを受け入れているように、ひとつも黒いものなんて持っていないように、笑っていられるんだろう。
「どうして……」
気がついたら、だった。
「どうして……藪内さんは、笑っていられるんですか 」
口から勝手に、そんな言葉がこぼれていた。
「……え?」
「あ……っ、えっと、その……藪内さんは……そんなにつらい体験をしたのに、どうして今、おだやかでいられるのかなと、思って……」
まごまごと、説明を口にする。
わからなかった。聞かせてほしかった。
だってわたしは、過去に引っ張られ続けているから。
思い出しては美和を憎んで、自分を嫌って、泣きそうになって。その繰り返し。
気がつけば、黒々した気持ちに侵食されてしまっている。
「すごくつらくて、憎く思うこともあったはずなのに……どうやって、過去を乗り越えたんですか……? どうやって……許せたんですか……っ?」
最後のほうは、声がふるえてしまった。
きっとわたしの今の顔は、眉が下がりきって、すごく情けないことになっている。
「そう、ですね……」
少し間があってから、藪内さんが口を開いた
。