固まって目を泳がせるわたしに、藪内さんがやわらかく言う。
胸がひりついた。
勉強をするかしないか、じゃない。学びたくても学べない人たちが、たくさん存在していたんだ。
それから藪内さんは、戦後までの出来事を話してくれた。
想像を絶する話だった。おそろしいほど理不尽で、悲痛な過去。
藪内さんが七歳のときに戦争は終わったけれど、終わってからもひもじい日々が続いたこと。
まともに食べることができない中、七歳にして赤子の面倒も見なければならなかったこと。
作物を作っても、お国にうばわれたこと。自分で作ったものを、自分の口に入れられなかったこと。
泥水を飲んだときもあること。雑草は当たり前で、土を食べた経験もあること。
爆弾がすぐそばの家に落ちて、幼なじみが大火傷を負ったこと。
病気になっても貧乏で手立てがなく、親戚が亡くなったこと。
「……っ」
わたしはただただ、絶句することしかできなかった。
想像できる限界を超えていて、何もかもが信じがたい。
もしそんな時代に生まれていたとしたら、弱いわたしは、生きるのをとっくに諦めていたかもしれない。
ひどく暗い、つらい過去。つらいだけでは言い表わせない過去。
聞いただけでもショックで、その過去に引きずられてしまいそうだ。
……なのに。
手に力が入って、布を越えて太ももにも爪が食い込む。