黒電話や白黒テレビを使っていたころの話。それから、携帯電話がないころの交際方法の話。

藪内さんの話はとても面白くて、知識をひけらかす感じがなくて、聞いていて心地よかった。

そういうところもなんとなく、賢い雨夜くんに似ている気がする。


「あ、あの……藪内さんは学生のころ、勉強って好きでしたか?」


だから、なにげなく浮かんだ疑問を口にした。

藪内さんも、きっとよく勉強ができたのだろうと思ったから。


けれど藪内さんから帰ってきた答えは、予想だにしなかったものだった。


「学校では、まともに学べていないんです。その……戦争の影響で」

「あ…… 」


戦争。重い言葉に衝撃を受けて、軽く質問してしまったことを後悔する。

そうだ、戦争。教科書で勉強して知っていたはずなのに、藪内さんをその時代に当てはめることをしていなかった。


そうか。藪内さんが歳若いころには、まだ戦争が行われていたんだ。


「いつ逝ってもおかしくないなという年になって、もう一度真面目に学びたいなと思いまして。それで、夜間に通い出したんです」