「いきなり話そう、なんて言ってすみません。お急ぎじゃなかったですか」
「い、いえ! このあとはとくになにも……!」
両手を胸の前でふるふると動かすわたしに、藪内さんは目元をゆるめる。
「よかった。雨夜くんと仲の良いお嬢さんと聞いて、一度お話してみたかったんです」
「わ……あの、う、嬉しい、です……!」
まるでたいそうなものに接するような言葉をもらって、恐縮してしまう。
藪内さんは、本当におだやかな人だ。
まわりの空気の流れが、ゆったりとしているように感じる。
癒されるなと思っていると、ガタンゴトンと音を立てて、すぐそばの駅に電車が入ってきた。
銀色のボディに、赤いラインが真っすぐ刻まれた電車だ。
その様子を見た藪内さんが、ふっと目を細めて言った。
「……時代というのは、めまぐるしく変わりますね」
視線を電車から、空に移す藪内さん。
はるか彼方にある雲を見上げながら、藪内さんは話を続ける。
「その時々は長く苦しく感じても……振り返ると、あっという間だったような気がします」
「あっという間……」
「そう、あっという間」
首を元の位置に戻した藪内さんは、また笑顔を浮かべて、昔と今の違いを話して聞かせてくれた。