心が完全に黒い気持ちに支配されてしまって、小さくふっと、あきらめの息をつく。
これ以上はこの本を読み進められそうもないし、他の本にも集中できない。
ここにいても意味がないと、モヤモヤした思いで席から立ち上がる。
カバンを肩に掛け、一歩踏み出す。するとちょうどのタイミングで、向こうから歩いてきた人がいた。
……藪内さんだった。
「永田さんとわたしは、六十六離れてるんですね」
サワサワと鳴る葉擦れの下で、藪内さんがどこか感慨深い声で言った。
同じ本を取ろうとしただけでなく、帰ろうとしたタイミングも一緒だったわたしたち。
驚いて固まっていたわたしに、藪内さんのほうから笑顔で近づいてきてくれて。
『よかったら少しだけ、話しませんか』
そう誘ってくれて……わたしたちは今、図書館を出てすぐのところにあったベンチに、並んで座っている。
本当ならロビーの長椅子でと思ったのだけれど、先客がいたので仕方なく外へ。
でもベンチの後ろには木が植わっていて木陰があるから、夏の日照りもそこまで強く感じない。