藪内さんの返答に、わたしはすっかり感心してしまった。

勉強するのは学校にいる間だけじゃないんだ。 そもそも、このお年で夜間に通っている時点ですごいのに。


「では、ごゆっくり」

「あ……は、はい! 藪内さんも!」


お互い小さく礼をして、その場を離れる。

淡い緑色の本は藪内さんが取っていかなかったので、わたしがありがたく席に持って帰ることになった。


わたしとは逆方向に歩いていった藪内さん。

この図書館には、数か所読書スペースがある。藪内さんは、別のところに席を取っているんだろう。


取っていた席に戻ると、わたしは姿勢を正して本に向かい、ゆっくりと表紙を開いた。

そうして、文字を追い始める。素直でクセがない文章のおかげで、物語にはすっと入り込むことができた。


内容もなかなか面白い。テンポがいい。めくる手がどんどん早くなる。

……けれど。


「……っ!」


終盤まで読み進めたとき、わたしの手はぴたりと止まってしまった。