「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
最悪な起床から二時間後。わたしは身支度をして、図書館に向かうことを決めていた。
図書館といっても近所の図書館ではなくて、雨夜くん家の最寄り駅の図書館だ。
片流れ屋根の、新しく広い図書館。
前回行ったときは結局本を読むに至らなかったし、あそこならめぐり会ったことのない本もたくさんあるはず。
この沈みきった気持ちが、少しは浮上すると思った。
「気をつけてね!いい本があるといいわね」
玄関で靴をはいていると、お母さんが見送りに来てくれた。
今日はお母さんに、ウソをつかずに『図書館に行く』と言っている。
罪悪感で、心をさらに重くしたくはなかったから。
「図書館なんて、久しぶりね」
靴をはき終えて振り返ったとき、お母さんに笑顔で言われた。
その声に、言葉を返せず作り笑いだけを浮かべる。
……お母さん、わたし、ほんとは図書館の常連なんだよ。
常連中の常連だよ。図書館は、わたしの避難所なんだよ。
心の中で話しかける。なんだか、鼻の奥がツンとした。