「あ……じゃ、じゃあ、帰るね! お邪魔しました!」

「うん、本当にありがとう。気をつけてね」


藪内さんや明山くんにも礼をして、充足感を味わいつつ教室を離れようとしたとき。

向かいから、タッタッタッと、こちらに走ってくる足音が聞こえた。


遅刻してしまうと急いでいる夜間生だろうか。

そう思って顔を上げて……わたしは目を見開き、全身に鳥肌をたてた。


え……?


走ってきた人――女の子も、わたしと同じように目を見開き、足を止める。


見覚えがありすぎる、外見だった。

ぱっつん前髪の下の、切れ長の目。長く細い手足。

そして……頭の上で揺れる、ポニーテール。


二度と会いたくなかった人。ずっと忘れたかった人。

それでも頭の裏側にこびりついて、わたしの心に暗い黒い影を落とし続けた、彼女。


なんで――。


「え……あつ……み?」

「……っ」


――どうしてここに、美和がいるの?