「もしかしてあなたが、雨夜くんと海に行った相手なのかな」
「あ……」
優しい、仏様みたいな笑み。聞いていたイメージそのままだ。
「えっと、はい……!あの、素敵な場所を教えてくださって、ありがとうございます……!」
「え……ええ⁉︎ なに⁉︎ こないだどこかいい海ないかって聞いてきたやつ⁉︎ この子と行ったの⁉︎」
「明山、うるさい」
明山くんをバッサリ切る雨夜くんに、わたしはとうとう、小さく吹き出してしまった。
今日は、すごい。なんだかすごい日だ。
話に聞いていた藪内さんに会えて、明山くんに会えて。
雨夜くんの、新たな一面が見られて。
こうやって夜間の教室まで来る勇気を出せたことも、自分の進歩をはっきり実感できたようで、すごく嬉しい。
ーーキーンコーンカーンコーン……。
そうして無事雨夜くんの手にカギを返せたところで、授業の準備に入れという予鈴が鳴った。