『え、なになに? どしたの』

『昨日これ、机ん中に忘れて帰っちゃってさー。さっき見てみたらチャック開いてて、勝手に使われたっぽい』

『マジで? 夜間生じゃない?』

『多分ね。気持ち悪っ』


ザワザワが教室内に広がって……そこで、頭の中の映像は終わる。

夜間生。胸の内でその単語を唱えて、わたしはゴクリとつばをのみ込んだ。


夜間生とは、〝夜間定時制の生徒〟の略称だ。

常和高校には、日中の全日制だけではなく、めずらしく夜間定時制の部というものがあって。

昼間働いている人やその他の事情がある人が、夕方からこの教室にやってきて、わたしたちと同じように授業を受けている……とのことらしい。


もちろん、その時間帯わたしは学校にいないから、存在を確認したことはないのだけれど。


「………」


くちびるを結んだまま、【大丈夫?】という文字をしばらく見つめる。


もしかして、これを書いたのも夜間生の人なのだろうか。

同じ机を使って勉強しているのだから、クラスメートよりもずっと確率が高い気がする。


直接顔を合わせることがない人。

そう思ったら、取り乱した気持ちが少しばかり落ち着いた。


心の容量に空きができたら、次は字の上手さに意識が向く。