「……今週末、百貨店まで足を伸ばすの。

香水がもうなくなるから、新しく買い換えようと思って」



「ん。いまの香水もすげえ好きだよ俺」



「ありがとう。それで、予定が空いてるなら一緒に来る?

誰かしら連れていく必要はあるけど、誰と行くかまだ決めてなかったのよ」



言えば、"うれしい"と口にしなくてもわかる表情をする彼。

こんな些細なことでも、雪深から見ればわたしに"求められている"状態なんだろう。五家のみんなは、わたしと主従関係だ。



「なら、俺とふたりきり……ね?

ほかのヤツ誘っちゃやだよ? わかってる?」



「ちゃんとわかってるわよ」



巷では、女王と言われているわたしと。それに忠誠な番犬と言われている彼ら。

けれどわたしも彼らもそれを気にしていないのは、それが事実に限りなく近いからだ。そもそも、首輪は付けているのに餌もやらず躾もしない主人より、すこし厳しい方がマシだと思わない?




「ん、なら約束」



「はいはい、約束」



絡めていた指を離して、小指だけが絡められる。指切り。

大人っぽい容姿でこれ以上ないほど人を惹き付けるのに、行動は可愛らしくてどこか憎めない。「針千本飲ます」まで言い切った彼が、殆どをカーディガンで隠した手でゆるむ口元を覆う。



「ひさしぶりのデートだから、たのしみ」



浮かれそう……、となぜかわたしよりも女の子らしい反応をする雪深。

こんなに楽しみって顔をしてくれるなら、わたしだってうれしいわけで。またあとで、と手を振って教室にもどる彼の背中を見ながら、自然と口元がゆるんだ。



『あなた達が、望んでここに来たわけじゃないってわかってる。

護衛としての活動を強いられてるあなた達を、わたしの身代わりにする気なんて一切ないから』



はじめて出会ってから、1年とすこし。

あの頃はお互いに干渉する気なんてどこにもなかったはずなのに、今じゃすっかり懐かれてるんだから面白いものだ。──分かり合おうとする気持ちがあるのなら、人間、案外いくらでも分かり合えるのかもしれない。