「そうやってすぐ揶揄わないの」
「……だって。
芙夏、俺が嬢といたらすぐ邪魔するから、」
甘えるように、密着してる身体をさらに寄せてくる雪深。
学年の違う芙夏も一緒にいるとあって、女の子がこっちを見てる。その中でもわたしには、妬み恨みの視線が耐えない。
それでもわたしに、誰も手出しできないのは。
わたしが全国を仕切る極道一家、御陵家の娘だからで。関東に拠点を置く御陵家直属の配下、御陵五家の息子たちがわたしのそばにいるからだ。
「べつに邪魔してない、よー?
ぼくもレイちゃんにかまって欲しいとは思うけど、」
「……雪深がわたしのそばにいる時間が長いからじゃない?
休み時間も暇なときはわたしのそばにいるし、みんなと一緒にいてもあなたはわたしにべったりだもの」
「ほんとにそう思ってる?
まあ、それならべつにいいけど……」
北海道東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州沖縄。
全国を六つに分け、拠点となる関東は御陵家が。そして御陵五家が、残りの五つの地域をそれぞれ拠点として活動している。
そのうち北海道と東北を担当する聖家の息子は雪深、近畿を担当する茲葉家の息子が芙夏だ。
実家が北海道にある雪深や、大阪にある芙夏。
それなのに彼らが今、
わたしと同じ地域にいる理由は、約一年前へと遡る。
わたしの両親にはどうやら子どもができにくかったようで、御陵には子どもがわたしだけ。
それに加え両親ともに兄弟がいないため、わたしには"いとこ"すらも存在しない。──つまり。
御陵を継ぐことができる権利を持つのは、わたしひとりだけなのだ。
女が組を継ぐだなんて過去に例がない。その上厄介なもので、女が組を継ぐことをまわりの人間も良くは思っていない。
けれど、継ぐ権利はわたしにしかない。
全国を仕切る極道のひとり娘で、唯一跡を継ぐ権利を持つ者。そんな存在は当然、いつ誰に殺められてもおかしくない危険な立場に置かれる。
そこで両親が五家の息子を招集し、わたしの"護衛"として配属させたのだ。
最終的に跡継ぎ問題は、婿養子を迎え入れるという結論にひとまず落ち着いた。現在日本の組組織は、我が家がすべて統一していることもあって比較的落ち着いている。