「殺されたくないなら、

背後に気をつけたほうが良いんじゃない」



カチャリ。

鍵を解錠して扉から姿を出すと、鏡越しに彼女たちと目が合った。さすがに気まずいと思ったのか逸らされる視線に、心の中でため息。



本人の前で文句を言えないんだから、結局はそれまで……と思ってしまうのは、わたしが捻くれているからだろうか。

裏でしか文句を言えないような子たちを、わたしが相手にしている暇なんてない。



冷酷だとか冷めてるだとか散々言われてきたけれど、温厚な極道の娘がどこにいるんだか。



「……わたしが手を下さなくても、あなた達の好きな"あの子たち"が、

うっかり殺しちゃうかもしれないから」



「ッ、」



「……ああ、むしろあの子たちに殺されるなら本望?」




怖いとされる心霊やホラーも、わたしは正直それを馬鹿馬鹿しいと思うタイプだ。

存在するかどうかも怪しい幽霊なんかよりも、感情を持った生身の人間の方がよっぽど怖い。



殺してみたかった、なんていうくだらない感情で。

はたまた、感情の勢いに任せて。たやすく人を殺めることのできる人間が、いちばん怖いと思う。



その中でもわたしのように、感情があってもなくても銃に指をかけられるような人間が一番おそろしいのかもしれないけれど。

……日本のトップに立つ極道を継ぐと決めたわたしに、怖いものなんて何もない。



「ただの見る目麗しい男子高校生ってだけなら、そもそもわたしはあの子たちをそばに置いたりしないわ。

……そもそもあなたたちの好きな彼ら。今は利口なわたしの番犬だけど、元々は狂犬よ?」



飼い慣らすどころか、手なずけることすらむずかしい。

わたしだって時間をかけてようやく、彼らを自分の番犬へと躾けたのだ。



ただ彼らの綺麗な容姿に惹かれただけの子たちが、元の彼らを手なずけられるとは到底思えない。



「……まあ、あの子たちが恋愛する相手まで縛るつもりはないから。

手なずけられるっていうなら、いくらでも好きにしてちょうだい」