その言葉に"げっ"という顔をするのは、予想通り芙夏と柊季だ。
いつも慌てて片付けるんだから、毎日ちゃんと片付けすればいいのにと思う。……それが出来るなら、ちゃんと片付けてるんだろうけど。
「マジかよダリぃ……」
「遊ぼうと思ってたけど片付けなきゃー……」
ふたりの嘆きを耳にしながら、目を閉じてシートに身を沈める。
小豆の「ブランケット使われますか?」という優しさを断って、横目でちらりと流れる景色を見た。
きっと人生の中で一秒っていうのは、車から見る、流れるように過ぎ去る景色みたいに一瞬でしかなくて。
手を伸ばすことすら出来ないほど、あっという間だけど。──どうか、無駄な時間だとは思いたくはない。
「……雨麗様、到着致しましたよ?」
そう声をかけられたのは、乗車してから15分ほど経過した頃だった。
いつの間にか浅い眠りにいたようで彼の言葉で目が覚めると、「うん」と小さく返事して車を降りる。それから別邸に行くみんなと別れて、着替えるために本邸の最奥へ向かった。
「雨麗様、近頃あまり眠られてないのでは?」
「……そんなことないわよ。
ただ、眠るのがあまり好きじゃないだけで」
「……心身共に影響しますので、
睡眠はしっかり取るようにお願いします」
そんな無茶なことはしない。
倒れたらそれこそ跡継ぎ問題の危うさが浮き彫りになるのだから、ちゃんと気は遣ってる。
わたしの返事にどこか納得していなさそうな顔を小豆が向けてくるのは無視。部屋に到着すると彼の手から紅色の着物を受け取って袖を通した。
本邸の最奥にある、わたしの部屋。
「……あのお方もきっと、雨麗様には元気でいてほしいと思われているはずですから」
着付けを終えたわたしの首にネックレスをつけながら、簡単に"あの方"と話題に出す小豆を睨みたくなる。その衝動をぐっと堪えて静かに「そうね」と返すと、首元で輝くネックレストップを撫でた。
……愛してるだなんて、ほんと、冗談じゃない。
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