軽く言葉を交わすわたしたちにくすっと笑った小豆は、動き出した車の中で用事を告げる。
それを聞いて「お嬢いないの?」と聞いてくるのは雪深で。暇になればわたしの部屋に遊びに来ている彼は、今日もそのつもりだったんだろう。
「ええ。夕食のお誘いを頂いてるのよ」
「……男?」
「雪深。レイは御陵のお嬢だよ?
色々と親睦を深める必要のある相手もいるんだから、失礼なこと聞くのやめて」
「いいじゃん別に。男とか普通にやだし。
……そもそも、出掛けるのに俺らの付き添いナシなの?」
めずらしくない?と首をかしげる雪深。
彼の言う通り、ここ最近は小豆とプラスして護衛に誰かが一緒に来ていた。めずらしいといえばめずらしいのだが、そんな疑問を抱いていたのはどうやら雪深だけではないようで。
「今日はお父様も同席するのよ。
お父様の護衛がいるから、あなた達はお休み」
わたしの答えに、なんとも言えない顔をする彼らに"やっぱりね"と内心苦笑する。
物静かで厳しいお父様同伴の席なら、おそらく彼らも息詰まるだろう。それをわかっていたから、わたしの護衛は同席させないとあらかじめ話をつけておいた。
「まあ、それなら仕方ないね」
「旦那様が一緒なら心配しなくても大丈夫だよー」
一緒に行きたいという視線を向けていた雪深も、お父様の件があるとあって「口説かれないでよ?」と言っただけだった。
そもそもわたし、相手が男性だなんて言ってないわよ。……まあ、男性だけど。
「帰ってきたら一度別邸に顔を出しに行くわね」
「……用事ある日ぐらい部屋帰れよ」
「部屋のチェックもしようと思って。
期間空けるとあなた達すぐに片付けサボるでしょう?」