「だから、」
「はいはい、わかったから落ち着いて。
……暇さえあればあなた達は喧嘩するんだから」
はあ、とため息をつく。
そんなわたしに雪深は小さく「ごめん」と謝ったけれど、謝るならわたしよりも胡粋に謝るべきだ。でもそれを告げてまた喧嘩になるのも面倒で、行きましょうと促し裏門を出ると、そこに。
「おかえりなさいませ、雨麗様。
みなさまも、お務めご苦労さまです」
「小豆さんいつもお務めご苦労様様って言ってくれるけど、ぼくたち普通に学校に通ってるだけだからねー。
誰かが学校に乗り込んでくるわけでもないし、お務めって言われるようなことしてないよ?」
「雨麗様のおそばにいて下さるだけで、十分なお務めになりますよ」
黒塗りのワンボックスカー。
フルスモークの怪しすぎるそれに近づけば先にドアが開いて、中から出てくるのはわたし専属のお世話係。小豆はわたしのバッグを受け取り、全員が乗車してから自分も乗り込んでドアを閉める。
「そんなこと言うの小豆さんぐらいだよねー」
「……学校でもクラス違うから、ずっと一緒なわけじゃないしね」
「校長脅せば何とかしてくれそうだけどな」
「……柊季。絶対やめなさいね」
ほんとにやりかねないから困る。
進級して……芙夏に至っては入学して、まだ一ヶ月程度なのに。問題を起こされたら御陵の名前にも傷がつく。組同士の問題ならまだしも、学校で問題を起こすのは本当にやめて欲しい。
挙句、わたしたちは極道関係者だ。
相手は一般人なのだから、何か起こるたびこっちは不利な状況にあるわけで。念を押すように「絶対やめて」と言えば、柊季は気だるそうにわかってるよと返事した。
「本日ですが、一度御陵邸までみなさまをお送りした後、
雨麗様は着替えられましたらご用事で外出ですので、帰宅は21時頃となります」