ごそごそとリュックサックを漁りながら言う芙夏。
中から何が出てくるのかと何気なく見ていたら、出てきたのは紙パックのいちごみるくだった。ピンク色のパッケージだけで、既に胸焼けしそうなくらい甘い。
「まあ、そうかもな。
俺らの中で雨麗を嫌いなヤツなんていねえだろ」
「……シュウは未だにわたしのこと嫌いよね?」
さっきから我関せずで、スマホゲームに夢中な金髪の男に声をかける。
歩きスマホしないの、と言ったところで聞くような男じゃない。過去につくったらしい、左側のこめかみにある大きな傷は何度見ても痛々しいのだけれど本人曰くもう痛くはないんだとか。
「ああ? 俺がお前を嫌いって?」
「そう。嫌いでしょう?」
首にはいつもの赤いヘッドホン。
それと対照的なサファイアブルーのピアスが彼の耳を彩るように付けられていて。金の髪に映える、赤と青。
「お嬢。たぶん、ほんとに嫌いだったらコイツはいまごろとっくに実家もどってると思うよ?
どう考えてもいちばん素直じゃない男だろうに」
「……はあ? うるせえ、雪深」
「あら、柊季。
ほんとはわたしのこと嫌いじゃないの?」
ちゃんと本名を呼んだせいか、彼がちらりとわたしを見た。
それからなぜかチッと舌打ちして、「好きではねーよ」と素直じゃない物言い。
もちろんそれには嫌いでもないという意味もふくまれているとわかっているから、いちばん目つきも態度も口も悪い彼が可愛く見えて仕方ない。
……彼の背が高すぎるせいで、頭を撫でられないのが残念だ。
「ふふ。かわいい。
素直じゃなくても構わないわよ。それがあなたなりの生き方で、わたしはそれも好きだもの」
柊季の隣に並んでそう言ったら、最高に嫌そうな顔をされた。
どうやらかわいいと言われたことが気に食わないようだけれど、わたしが"主人"であるせいかそれ以上は何も言ってこない。