「懐かしいわ。 よく二人で散歩しながら花の香りを嗅いでいたのよね」

「鼻を近づけすぎたせいで虫に襲われた事もあったね。 君は大騒ぎして鼻の頭にくっついた虫を取ってくれと目に涙をためて……」

 ホワイト家の庭は昔から私達の遊び場。
 芝生を駆け回り、花壇の土を掘り返して怒られ、楽しかった日々がこうしてロナウドと二人で歩く事でよみがえって来る。

「俺はいつも必死だったよ。 ロージーは姉の君を離そうとしないから、どうすれば俺を見てくれるだろうかと子供ながらに思案してばかりだった」

「貴方はいつだって私を引っ張ってくれたわ。 安心して行く先を任せられると思ったものよ」

「だが、あの落馬事故が全てを変えてしまった。 リリィにはどんなに言葉を尽くしても取り返せない。 あれがなければ、森に行かなければ、何度そう思ったかわからない。 本当に申し訳なかったと思っているよ」

「それはもうやめましょう、過去は変えられないもの」

 私の目覚めない姿をただ見るしかなかったロナウドの心境が、どれだけの辛い日々を背負わせる事になったか、想像するのが怖い。
 そんなロナウドをロージーが支えたとして、どうして責められるだろうか。
 裏切り者、そんな言葉が言えるはずなどないのだ。