「……は? ちょっと待て!」

「ロナウド殿、殿下に無礼な発言はお止め下さい」

 控えていたジェイの従者が睨んで一歩進み出る。

「まぁ、いいさ。 構わないよ」

「ロナウド、私から説明するわ。 こちらのジェイ……ジェイムズと私はこれからトラウデンバーグに行き、陛下のお許しを得た後で婚約の儀を行う予定なの」

「婚約……?」

 それを聞いたロージーの動揺が空気で伝わる。

「まさか……。 ねぇ、お姉様はロナウド様と結婚なさるのですよね……?」

「何を言っているの、ロージー? それは貴方でしょうに」

「お姉様……」

「リリィ、何がどうなっているのかわからない。 どういう事だ?」

 ロナウドが表情を失くしている。
 それはそうだろう、何も知らされていないだろうから。

「まずは皆、座ろう。 殿下、こちらへ」

 お父様がさっきまで座っていた席へと促したのに、ジェイはそれを丁寧に断った。

「いいえ、私はリリィの隣で構いません。 それに子爵の邸だ、貴方がそこに座って下さい」

 おそらく邸の使用人達は今頃、大騒ぎをしているだろう。 隣国の王子が現れたのだから。

 ロナウドとロージーを騙したかったわけでも懲らしめたかったわけでもない。
 事実を明らかにして、二人には幸せになって貰いたい。
 もう偽らないで欲しい、そう思ったのだ。