「文にはなんと?」

「明日の朝、発つそうよ」

「そうですか……」

「それにしても貴方には驚かされたわ」

 広げた便箋を畳み、封筒に戻して鏡台に置く。

「あまり信じて貰えない話ですから」

「いつ、トラウデンバーグからミハイゼンに?」

「子供の頃です。 兄妹の中で祖母の血を一番強く受け継いだ私の将来を心配した両親がこの国に預けたのです」

「確か、お母様の遠縁だったわね」

「はい、リリィ様や奥様に内緒にしていたのは気味悪がられると思ったからで、騙そうとかそんなつもりではありませんでした」

「わかっているわ、貴方はいつも冷静だったもの。 それにジェイの話を聞いて納得したのよ」

「祖母の近くにいる事で影響を受け過ぎる可能性を危惧されていたようですが、それはこの国にいても関係ない事は証明されました。 だからこそ祖母に会ってみたいのです、お願いします」

「わかったわ。 貴方の気持ちを尊重します」

 侍女は私やロナウド、ロージーがまるで絡み合った糸のようになる事を知っていた。
 あまり私の近くに接して来ようとしなかったのもそこに関係しているのだろう。

「もしかして私の侍女になったのって……?」

「はい。 お力になれるかもしれないと思いました」

「明日、お母様はどんな顔をなさるかしら」

 こぼすように呟く私を、侍女はまるで姉さながらの微笑みで肩に手を添えた。