「覚えている? 子供の頃、庭や森を駆け回って二人でよく叱られたわ。 女の子が擦り傷や汚れだなんてはしたないにも程がある、令嬢らしく淑やかに振る舞いなさいと何度注意されたか……」

「そうだったね。 その度にロージーを見習いなさいと引き合いに出されてたっけ」

「あの子はいつも私の後を追い掛け回して泣いていたわ。 お姉様、私も連れてって。 お姉様、お姉様……って。 なかなか姉離れができなくてお母様を困らせていたの」

「今だって似たようなものなのかな? それに姉想いという優しさも加わったし」

「そうね。 きっとそれも潮時よ……」

「……リリィ?」

 知らないままの幸せを得なくて良かった、今は心からそう思う。

 本当は何度か目撃していたのだ。 二人の関係を。
 それはロナウドとロージーがすれ違い様に指先を絡め合う仕草だったり。 ロナウドがロージーの背中に手を添えた時も。

 ただそれは未来の義兄妹の仲を表したものだと思い込んでいたから、怪しさなんて微塵も考えていなかった。

 そしてあの日から数日経った一昨日、再び遊びに来たロージーが庭の影でロナウドの掌に唇を添えているのを見た時、執事達の話が真実なのだと思い知ったのだ。