警備兵の馬が先導しながら馬車は走り出す。
 馬車の窓から見えるのは、木々からそよぐ風が心地良い森。
 そこを抜けると、愛する人が待つ城の城門が見える。

「妃殿下、城下にお見えになる際は必ず私共を伴うようにお願い致します」

 馬車の中で女官から窘められる。

「ごめんなさいね、貴方に手間を掛けさせてしまって」

「妃殿下がいないと言って侍女が右往左往しておりましたので、代わりに私がまいりましただけですからお気になさらず」

 私や侍女よりも、遥かに年上の女官。 その冷静さがまるで母親が子供を叱る時のようで、温かな気持ちになる。

 城に戻り、玄関ホールに姿を現した私を見つけた侍女の顔は泣きそうだ。
 ドレスの裾を持ち上げて、行儀悪さも気にする事なく走って来る。

「妃殿下!」

 思わず抱きついてしまいそうな勢いの侍女。
 女官の咳払いでハッとする彼女の顔が可愛い。

「何も言わずにごめんなさいね」

「もぅ、どんなに心配したか……」

「ほんの少し、外の空気を味わいたかっただけなの」

「殿下が城下に捜索隊を出そうかと側近に話していらっしゃいましたよ」

「あら、まぁ……。 すぐに顔を出さなくては」

「妃殿下、その必要はなさそうですよ」

 女官が階段上に視線を移した。

「リリィ、お帰り」

 私も上を見上げようとすると、そこから愛する人の甘い声が聞こえる。

「あれが、さっきまで捜索隊を出そうとした人の言葉なのですからね」

「全くです。 あの殿下は妃殿下に甘すぎるのです」

「ご覧なさいな、あの蕩けそうな殿下の顔」

 女官達の話を横で耳にしながら、口角が上がる。

 何故なら手摺りから顔を覗かせているのは……。