「リリィ嬢……そんなに息を切らしてどうした?」

 それはなんでもない風の、いつものジェイ。
 なのに少しだけ寂しそうな笑みが心を揺さぶる。

「ごめんなさい。 妹が失礼な態度を取ってしまって……」

「気にする事はないさ。 それで謝りに来てくれたのかい?」

「それもあるわ。 ですが、それよりも話がしたかったのです」

「そういえば、別れの言葉を言えてなかったね」

 ジェイは木に凭れながら私を見上げる。

 それは見下ろす私の方が悲しくて切なくなる顔で。

「初めてここで君に会った時、天が授けてくれたのだと思ったよ」

「ジェイ……」

「悪戯な運命だよね。 ロナウドの婚約者だなんて」

 そう言いながら立ち上がり、服についた葉を手で払う。

「それは……」

「俺は国に帰るよ。 君の泣き顔は見るのが辛い」

「ジェイと会えなくなれば、私は泣いてしまうかもしれません」

「そうだとするなら俺は寧ろ嬉しいのだけどね」

「どういう意味ですの?」

「君が知る事実はきっと耐えられないくらいに辛いものだろうから」

「ジェイの言っている意味がわかりませんわ」

「リリィ嬢、俺と一緒に国に来ないかい?」

「え?」