×月×日

「お気をつけて、ロナウド」

「リリィ、悪いが明後日は少し遅くなるかもしれないよ」

「大丈夫、お仕事ですものね」

 いつも通りの、隙のない服装で馬車の待つ玄関アプローチへと向かうロナウド。

 いつもこうして馬車に乗り込んで門を出て行くロナウドを、見えなくなるまで見送るのが私にとっての大切な儀式のようなもの。

 彼の向かう先は王宮で、毎朝の事ではない。
 邸に帰って来るのは三日に一度、それ以外は王宮内の一角に寝泊まりしている。
 だから二人で過ごせる時間は少なくて、寂しいと言えば寂しくもあるのが本音。

「さて、今日は何をしようかしら」

 ロナウドのいない時間は殆どが読書か刺繍だ。
 料理ができるわけでもないし、させてもらえない。 土いじりをしようとして侍女に叱られて以来、手を泥で汚す事もなくなった。
 気分転換に散歩をする時はいつも私一人だし、侍女も誰も付き添わない。

 こんなにも自由な一人きりの時間ばかりだと、正直言って困惑してしまう。

『リリィ様、出歩くなら私がお供します』
『リリィ様、庭の花がとても綺麗に咲いていますよ』

 以前ならこんな風に構われてばかりだったのに。

「そうだ、ビアンカに会いたいわ」