「ですが、濡れたシャツを着替えないと」

「いいさ、どうって事ない」

 腕の中の子犬は粗相したのに、変わらず気持ち良さそうに寝ている。

「犬というのは穏やかな気持ちにさせてくれるものですね」

「俺の邸は森の向こうにあるから子犬が見たきゃ来ると良い。 暇潰しにもなるだろう」

「よろしいのですか?」

「もっとも婚約者以外の男に会いに来るのは噂の元になるだろうがな」

「あら、私はビアンカに会いに行くのですわ」

「ビアンカ?」

「えぇ、この子の名前です。 今、決めました」

 ジェイがビアンカ、と腕の中の子犬に呼び掛けると、まだ見えない目と鼻で懸命に身体を動かそうとしている。

 命の灯に火をつけたジェイと私は思わず顔を見合わせて笑む。
 まるで秘密の遊びでも共有したかのように。