「私、早く元通りの自分に戻りたいの」

「リリィ、先生もおっしゃっているだろう? 焦りは禁物だ」

「だって私達は夫婦になるのでしょう? あれから三年経っているのなら、いつまでも寝ているわけにはいかないわ」

 そう、私とロナウドは婚約者から夫婦へとなるのだから早く元気にならないと。

「リリィ、俺は君がこうしているだけで奇跡だと思っているよ」

 ロナウドは弱った私を見て呆れたり蔑んだり、ましてや急かす事もなく、いつも笑って見舞いに来てくれる。

「だったらロナウド、貴方の邸に移るのはどうかしら。 婚約者のいる私がいつまでも実家で暮らすのは変だもの」

「せっかくリリィお姉様と一緒にいられたのに……」

 ロージーが残念そうにこぼす。

「ロージー、貴方には本当に感謝しているわ。 きっと一人ではろくに何もできない私の世話なんて嫌だったと思うもの」

「そんな事ありません! 私、お姉様が大好きだもの」

「貴方は良い子ね、ロージー。 そのうち、貴方にも好きな殿方が現れて婚約したとしても私の可愛い妹でいてね」

「当然ですわ、リリィお姉様。 私にはいつまでもお姉様が一番です」

「さっそく子爵夫妻に報告しなくてはいけないね」

 ロナウドが私達姉妹の手を取り合う様を楽しそうに眺めながら言う。

 子供の頃はこんな時、泣くロージーを宥める私の腕を取って不貞腐れるのがロナウドだった。

 時の経過はまるで強い風が吹いたかのように、私の知らぬ間に過ぎて行く。

「ローズも邸に遊びにおいで」

「あら、ロゥに会いに行くわけではありませんわ。 私はお姉様に会いたいの」

 ロナウドとロージーはそう言って楽しげに笑っている。

 それは目が覚める前の、意識の上を飛んでいた会話のように聞こえた。