頭の上で、深呼吸をする音。
そして彼は、その唇を私の耳元に移して、囁いた。
「村井さん。俺、村井さんのこと、研修の時からずっと好きだったんだ。
ーーー俺の彼女になってよ」
ヒュッと、自分が息を呑む音がした。
え、ちょっと、何?!
今、何が起こってる?!
固まってしまった私の髪を、そっと耳にかけ直して、彼は耳に唇を付けるようにした。
軽く耳に触れた唇に、んっ、と、つい色っぽい声が出てしまう。
私は更に赤くなって、口許を押さえた。
やだやだ、恥ずかしすぎる。
彼は少し笑って、更に囁いた。
「村井さん、俺の声好きなんでしょ?
俺自身も好きになって」
「なっ、何で声が好きって…」
「神田さんと話してるの、聞いた」
私はもう恥ずかしくて、顔をあげられない。
手で覆って、蹲りたい。
でも、肩を抱く彼が、それを許さない。
神田、というのは、後輩の女の子だ。
例に漏れず彼のファンで、近い距離に居る私に突っかかって来た時、そんな話をした。
『ーーーそうね、声は好みかな?
でも、そんなつもりは無いよ、年下だし』
にこやかに笑って、そう言った記憶がある。
彼は私の肩を強く抱いたまま、首元に顔を埋めた。
そして、絞り出すように言った。
「どんなに頑張っても、年上にはなれないけど…頼れる大人の男になるように頑張るから、俺と付き合ってよ」