ーーーそう、固く決心していたはずなのに。

彼は、何かと私に絡んだ。
色々と相談を持ちかけてくるのだ。

「村井さん、これどうしたらいいんですかね?」
「村井さん、この人知ってます?雑談の話題って何がいいですか?」
「ここに営業かけたいんですけど…」


あまりに頻繁に私の所に来るから、後輩の女の子達の目が厳しいのなんのって。
だからといって、仕事だから適当にあしらう訳にもいかず、他の男性社員に振っても、『村井さんの意見が知りたい』と譲らない。

そうこうしているうちに、彼は営業成績をどんどん上げて主任へと昇進。
昇進と同時に、私を専属の営業事務に指名した。

曰く、他の人に頼むと、かえって邪魔されるとか。
確かに、仕事中でも終わってからも、女の子達に誘われているのを、何度も見た。
私でも、『仕事中なんだから公私混同はダメでしょ』って思うんだから、彼にとってはもっと嫌だったんだろう。



それでも続く、そんな場面を見る度に。
諦めたはずの私の胸が軋む。


ー彼は、高嶺の花。
ーー彼は、私なんて眼中にない。
ーーーいい加減、諦めなさい。




何度も何度も、自分に言い聞かせた。



そして、苦肉の策として、私の上司となった彼に話す時、敬語を使うことにした。
線引きを、周囲と、私自身にはっきりさせるために。