「……やりすぎ」
ぼそりと、私が呟く。
息吐く間もなく続いた、長い長いキスにぐったりしながら、私は抗議した。
いつの間にか椅子に腰掛け、私を横抱きに膝に乗せた彼は、申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめん、嬉しくてつい」
「もう、あとちょっとなのに、仕事出来ない…」
私がむくれると、彼は悪戯が成功したかのようにニッコリと笑った。
「大丈夫、あれ、そんなに急ぎじゃないから」
「だと思った…。何でそんなことさせたの…」
私は、溜息を吐きつつ言う。そんな私に、彼は凄絶に微笑んで、得意げに言った。
「村井さんを、デートに行かせないため」
「はい?」
「他の男のとこになんか行かせないと思って。
金曜日は絶対、他の日はランダムに残業入れてた」
種明かしは、黒い微笑みで。
そんな表情も、私には可愛く見えてしまう。
ーーー重症だ。
「職権濫用だわ…」
「必要な事を、前倒しでやってもらっただけだよ。
日常業務は別にあるんだから」
全く。ああ言えば、こう言う。
でも、全部、私を想ってのこと。
これが嬉しくない訳がないじゃない。
「仕方ない人ね…」
ぐったりした身体をゆっくり起こして、自分から彼にキスをする。
いつも冷静な彼の、驚く表情に満足して、私は声をあげて笑った。
これから、きっと色々ある。
でもね。
「のどかさん、結婚を前提に付き合ってください」
愛しそうに、嬉しそうに言う彼の言葉に対する返事は、いつでもきっと。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
OK以外に、無い。
〜f in〜