ファーストダンスを聖女と踊り、
僕は次々と本土から祝に来ている
貴族の子女と踊る。
聖女トモミを見れば
アラリャス王子とダンス中。
あの2人でも
ダンスをしながら、何か話を、
しているだろう。
然り気無く視線を這わすと、
壁際で立っていた婚約者が
出て行くのが
見えた。
「ガルゥヲン殿下は、婚約者様と
余り仲がよろしくないとの噂は
本当でしたのね。聖女様と縁を
考えてらっしゃいますの?」
目の前で僕が手を取り
パートナーに踊る令嬢が、
切れ長の
紅玉瞳を絡ませて問うてくる
本土にて作られたであろう
豪華なドレスを纏い、
上級貴族の証と紺色の髪を
結い上げ、後れ毛を
靡かせる。
皇帝指名権を持つ貴族、
選帝侯の娘サリュエリ嬢。
本日9人目の
ダンスパートナーだ。
「そうですね。王帝領にとって、
1番有益な伴侶を得るべき
でしょうから、どうなるか。」
僕が曖昧に答えて、
微笑みながら
リードターンをすると、
サリュエリ嬢は、わざとらしく
僕の胸元に頬を寄せて
「歴代の皇帝は、皆側室を
お持ちでしたもの、神の采配は
寛大に成されることでしょう」
艶めく口に、自分にも
皇帝の側室の権利があると
含ませてくる。
この令嬢も成人したばかりで、
雌の匂いを
漂わせるのだからな。
「それも、力在る皇ですから。
正に神の采配による事ですよ」
そんな選帝侯の娘に、
少し投げやりに返事を僕はして
ダンスを終える礼を取る。
本当に、切りがない。
近達に合図を送って、
然り気無く虫除けに越させた。
『ガルゥヲン殿下、あちらの
来賓がお待ちです。御越しを』
「解った。では御令嬢たち、
暫し、席を外しますね。では」
張り付けた優男皇子顔を
指で解しながら、
夜風が潮を運ぶテラスに出る。
が、
思いの外、テラスも人が
多い。
どいつも、こいつもだ。
この衛星島に本土貴族が
食指を蠢かせ
押し寄せているのが解ると
僕は呆れのため息を
ついた。
『中庭に降りられますか?』
さすがに
近達も後ろから声をかけてくる
「いや、中庭も多いだろ。父上も
いらっしゃる。少し、抜けても
大丈夫だろ。中奥のテラスに」
僕は近達に告げて、
大広間のテラスを横切る。
大広間や、広間があるのは
城の表で、来賓や貴族を迎える
対外の場。
城の政治を仕切る文官の場も
表にある。
中奥は王弟族の執務に、
皇子の居住の場所。
勝手知ったる侍従女達が
その庭で、
この後に天空に飛ばす
祝のランタンを準備している
はずだ。
「中奥の庭に労いの声をかける」
それを思い出して、
僕は中奥の庭に出た。
「こんな所に、、」
思わず呟く僕の目線の先には
ランタンの準備をする
侍従女達を手伝う、
婚約者の姿があった。
壁の花で居るのならと、
中奥に来たのだろうなと、
思いつつ、
「マーシャ・ラジャ・スイラン」
思うより表情の無い声で、
侍従女に紛れ手伝う
婚約者の名を口にする。
「あ、ガルゥヲン殿下。今宵は
成人の儀。御祝い申し上げます」
どこか、
悪戯が見つかった様な顔をして、
婚約者はそう祝ぐと、
優雅なカーテシーでもって
まるで僕から
顔を背ける。
本来なら、婚約者として
ファーストダンスの時に挨拶する
べきはずを、
僕が無視した為に
祝いの辞を
この場で告げてきたのだ。
「いい、テラスへ。」
僕は、それさえも
無下にして婚約者にテラスへと
顎でしゃくる。
「表で、対応してくれるかな。」
合わせて近達も表に戻るように
申し付ければ、
あとは、専属護衛が
僕達に付いてくるのみ。
「あの、殿下。このランタンが、
殿下が飛ばされる物だと、、」
婚約者が両手で持つのは、
一際大きく明るいランタン。
ウーリウ衛星島の成人の儀には、
このランタンを飛ばして
儀式の終了の合図にする。
城から来賓や、貴族達、
城下からは民達が、御祝いを
意味し飛ばす
ランタンは、沢山の光になって
空へと吸い込まれるのだ。
護衛の1人が
気を効かせて、婚約者の手から
ランタンを受け取った。
無論、
僕が婚約者をエスコートする事も
無い。
中奥の庭から、
テラスへと出ると、
城下の民が用意する
無数のランタンの灯りが
海原の如く眼下に見える。
「綺麗。」
婚約者が、
テラス下に拡がる光景に
黒い瞳を輝かせるのが、
酷く呑気に見えて、
そんな
横顔を
壊したくなるんだ。
「殿下、お誕生日おめでとう
ございます。あの、これ。
お誕生日の御祝いです。先に
渡すつもりだったのですが、」
きっと、浜辺で渡すはずだった
のだろう。
リボンの付いた小さな箱を
婚約者は僕に差し出す。
僕は、それを手にする事なく、
目の前の婚約者に
今日、告げるつもりだった
言葉を
躊躇なく投げつけた。
「マーシャ・ラジャ・スイラン。
今を持って婚約を解消したい」
『『ガルゥヲン殿下!』』
護衛達が、いち早く
僕の言葉に
焦って反応して、
婚約者の目に映る
ランタンの灯りが
動揺に揺れた。
「君もわかっているだろう?
僕は皇帝になる身だ。幼少
から結んだ婚約は枷になる。」
それでも僕は
心ない言葉を紡ぐのを止めない。
「本当は、君だって意味も解ら
ない年からの婚約に、不満が
あったんじゃないか?只でさえ
魔力無しの僕だ。生まれる
子供に、遺伝するだろう。」
遠くで、大広間から流れる
音楽が聞こえる。
潮騒。
海鳴りのような騒々しさ。
婚約者は、
身動ぎもせずに僕の目を見つめて
戦慄く口を
ゆっくりと、開いた。
「殿下、との、、婚姻は、
嫌では、、ない、ですが、、
殿下には、枷、で、した、か」
気丈だと思う。
泣くでも無く、喚くでも無く。
婚約者は両手を握り締めて
感情の吐露を堪えて、
「申し訳、ない、です。」
只只
己の不甲斐なさだと
片手を
胸に詫びの礼を取る。
「では、後日正式に解消の手続き
をするが、慰謝料の願いは?」
僕の言葉に、
元婚約者となる彼女は一瞬
護衛に目を向ける。
「ああ、悪いが下がってくれる?
大丈夫だ、スイラン嬢が結界を
張る。さすがに婚約解消の
細々はお互い気まずいから。」
彼女の視線から察して
後ろの護衛を下がらせる。
ここは中奥で、
最力の魔力を持つ令嬢の結界だ。
何も起こり得ない。
『殿下、早まっては、、』
婚約解消に異議申す護衛に、
「いいんだ。下がってくれ。」
改めて命じて、
漸く
彼女と2人になる。
そして、テラスへの喧騒が
消えた。
「じゃあ、慰謝料の願いを、
改めて聞こうか、スイラン嬢」
潮風も凪いで結界が張られる。
「殿下、、せめて、
本来の姿で、お願いします。」
いつも僕に気兼ねをして、
魔力を使わない彼女が、
力を行使すると、
途端に魔導師の顔になるから、
不思議だ。
「解った。」
もともと、彼女の父親、
最有国魔導師であり宮廷伯の
ザードが魔充石から作った
変身の幻術だ。
メタモルフォーゼを溶けば
優男皇子は消えて、
一回り筋肉で育つ身体に
戻る。
そして、この姿になれば、
「ルウ。本当に婚約解消なの?」
元婚約者の彼女は
ただの冒険者ルウとして接する。
「ああ。」
そして僕も本来は、
無口な方で。
「、、ごめんなさい。ルウ。
今までルウを苦しめたなら。」
彼女の眉が歪んで下がる。
「こちらからだ、慰謝料は払う」
そう、
きっとどちらが悪い訳ではなく、
政略の婚約だっただけだと、
僕は割りきった顔を
して見せる。
のに、彼女は
「なら、、最後に、ちゃんと
口付けして。でないと別れない」
何時でも心臓に悪い女なのだ。
僕は次々と本土から祝に来ている
貴族の子女と踊る。
聖女トモミを見れば
アラリャス王子とダンス中。
あの2人でも
ダンスをしながら、何か話を、
しているだろう。
然り気無く視線を這わすと、
壁際で立っていた婚約者が
出て行くのが
見えた。
「ガルゥヲン殿下は、婚約者様と
余り仲がよろしくないとの噂は
本当でしたのね。聖女様と縁を
考えてらっしゃいますの?」
目の前で僕が手を取り
パートナーに踊る令嬢が、
切れ長の
紅玉瞳を絡ませて問うてくる
本土にて作られたであろう
豪華なドレスを纏い、
上級貴族の証と紺色の髪を
結い上げ、後れ毛を
靡かせる。
皇帝指名権を持つ貴族、
選帝侯の娘サリュエリ嬢。
本日9人目の
ダンスパートナーだ。
「そうですね。王帝領にとって、
1番有益な伴侶を得るべき
でしょうから、どうなるか。」
僕が曖昧に答えて、
微笑みながら
リードターンをすると、
サリュエリ嬢は、わざとらしく
僕の胸元に頬を寄せて
「歴代の皇帝は、皆側室を
お持ちでしたもの、神の采配は
寛大に成されることでしょう」
艶めく口に、自分にも
皇帝の側室の権利があると
含ませてくる。
この令嬢も成人したばかりで、
雌の匂いを
漂わせるのだからな。
「それも、力在る皇ですから。
正に神の采配による事ですよ」
そんな選帝侯の娘に、
少し投げやりに返事を僕はして
ダンスを終える礼を取る。
本当に、切りがない。
近達に合図を送って、
然り気無く虫除けに越させた。
『ガルゥヲン殿下、あちらの
来賓がお待ちです。御越しを』
「解った。では御令嬢たち、
暫し、席を外しますね。では」
張り付けた優男皇子顔を
指で解しながら、
夜風が潮を運ぶテラスに出る。
が、
思いの外、テラスも人が
多い。
どいつも、こいつもだ。
この衛星島に本土貴族が
食指を蠢かせ
押し寄せているのが解ると
僕は呆れのため息を
ついた。
『中庭に降りられますか?』
さすがに
近達も後ろから声をかけてくる
「いや、中庭も多いだろ。父上も
いらっしゃる。少し、抜けても
大丈夫だろ。中奥のテラスに」
僕は近達に告げて、
大広間のテラスを横切る。
大広間や、広間があるのは
城の表で、来賓や貴族を迎える
対外の場。
城の政治を仕切る文官の場も
表にある。
中奥は王弟族の執務に、
皇子の居住の場所。
勝手知ったる侍従女達が
その庭で、
この後に天空に飛ばす
祝のランタンを準備している
はずだ。
「中奥の庭に労いの声をかける」
それを思い出して、
僕は中奥の庭に出た。
「こんな所に、、」
思わず呟く僕の目線の先には
ランタンの準備をする
侍従女達を手伝う、
婚約者の姿があった。
壁の花で居るのならと、
中奥に来たのだろうなと、
思いつつ、
「マーシャ・ラジャ・スイラン」
思うより表情の無い声で、
侍従女に紛れ手伝う
婚約者の名を口にする。
「あ、ガルゥヲン殿下。今宵は
成人の儀。御祝い申し上げます」
どこか、
悪戯が見つかった様な顔をして、
婚約者はそう祝ぐと、
優雅なカーテシーでもって
まるで僕から
顔を背ける。
本来なら、婚約者として
ファーストダンスの時に挨拶する
べきはずを、
僕が無視した為に
祝いの辞を
この場で告げてきたのだ。
「いい、テラスへ。」
僕は、それさえも
無下にして婚約者にテラスへと
顎でしゃくる。
「表で、対応してくれるかな。」
合わせて近達も表に戻るように
申し付ければ、
あとは、専属護衛が
僕達に付いてくるのみ。
「あの、殿下。このランタンが、
殿下が飛ばされる物だと、、」
婚約者が両手で持つのは、
一際大きく明るいランタン。
ウーリウ衛星島の成人の儀には、
このランタンを飛ばして
儀式の終了の合図にする。
城から来賓や、貴族達、
城下からは民達が、御祝いを
意味し飛ばす
ランタンは、沢山の光になって
空へと吸い込まれるのだ。
護衛の1人が
気を効かせて、婚約者の手から
ランタンを受け取った。
無論、
僕が婚約者をエスコートする事も
無い。
中奥の庭から、
テラスへと出ると、
城下の民が用意する
無数のランタンの灯りが
海原の如く眼下に見える。
「綺麗。」
婚約者が、
テラス下に拡がる光景に
黒い瞳を輝かせるのが、
酷く呑気に見えて、
そんな
横顔を
壊したくなるんだ。
「殿下、お誕生日おめでとう
ございます。あの、これ。
お誕生日の御祝いです。先に
渡すつもりだったのですが、」
きっと、浜辺で渡すはずだった
のだろう。
リボンの付いた小さな箱を
婚約者は僕に差し出す。
僕は、それを手にする事なく、
目の前の婚約者に
今日、告げるつもりだった
言葉を
躊躇なく投げつけた。
「マーシャ・ラジャ・スイラン。
今を持って婚約を解消したい」
『『ガルゥヲン殿下!』』
護衛達が、いち早く
僕の言葉に
焦って反応して、
婚約者の目に映る
ランタンの灯りが
動揺に揺れた。
「君もわかっているだろう?
僕は皇帝になる身だ。幼少
から結んだ婚約は枷になる。」
それでも僕は
心ない言葉を紡ぐのを止めない。
「本当は、君だって意味も解ら
ない年からの婚約に、不満が
あったんじゃないか?只でさえ
魔力無しの僕だ。生まれる
子供に、遺伝するだろう。」
遠くで、大広間から流れる
音楽が聞こえる。
潮騒。
海鳴りのような騒々しさ。
婚約者は、
身動ぎもせずに僕の目を見つめて
戦慄く口を
ゆっくりと、開いた。
「殿下、との、、婚姻は、
嫌では、、ない、ですが、、
殿下には、枷、で、した、か」
気丈だと思う。
泣くでも無く、喚くでも無く。
婚約者は両手を握り締めて
感情の吐露を堪えて、
「申し訳、ない、です。」
只只
己の不甲斐なさだと
片手を
胸に詫びの礼を取る。
「では、後日正式に解消の手続き
をするが、慰謝料の願いは?」
僕の言葉に、
元婚約者となる彼女は一瞬
護衛に目を向ける。
「ああ、悪いが下がってくれる?
大丈夫だ、スイラン嬢が結界を
張る。さすがに婚約解消の
細々はお互い気まずいから。」
彼女の視線から察して
後ろの護衛を下がらせる。
ここは中奥で、
最力の魔力を持つ令嬢の結界だ。
何も起こり得ない。
『殿下、早まっては、、』
婚約解消に異議申す護衛に、
「いいんだ。下がってくれ。」
改めて命じて、
漸く
彼女と2人になる。
そして、テラスへの喧騒が
消えた。
「じゃあ、慰謝料の願いを、
改めて聞こうか、スイラン嬢」
潮風も凪いで結界が張られる。
「殿下、、せめて、
本来の姿で、お願いします。」
いつも僕に気兼ねをして、
魔力を使わない彼女が、
力を行使すると、
途端に魔導師の顔になるから、
不思議だ。
「解った。」
もともと、彼女の父親、
最有国魔導師であり宮廷伯の
ザードが魔充石から作った
変身の幻術だ。
メタモルフォーゼを溶けば
優男皇子は消えて、
一回り筋肉で育つ身体に
戻る。
そして、この姿になれば、
「ルウ。本当に婚約解消なの?」
元婚約者の彼女は
ただの冒険者ルウとして接する。
「ああ。」
そして僕も本来は、
無口な方で。
「、、ごめんなさい。ルウ。
今までルウを苦しめたなら。」
彼女の眉が歪んで下がる。
「こちらからだ、慰謝料は払う」
そう、
きっとどちらが悪い訳ではなく、
政略の婚約だっただけだと、
僕は割りきった顔を
して見せる。
のに、彼女は
「なら、、最後に、ちゃんと
口付けして。でないと別れない」
何時でも心臓に悪い女なのだ。