朝日が登り、
ウーリウ衛星島から
カフカス王帝領大陸に繋がる
『バリアロード』に向けて、
海沿いを豪奢な
6頭立て馬車が列なり走る。
僕は、チラリと目の前に
横柄に足を組み上げる、
アラリャス王子に
窓枠に肘を付いたまま
目だけを向けた。
「何故、お前なんかと一緒に
乗り合わせなんだ?勘弁して
しろよ。おまけに、未だに馬車
でしか乗り物はロードを走れな
いのを、どうにかしろよ!!」
文句ばかりほざく
アラリャス王子に僕は黙って
座るだけ。
『護衛の問題ですから、我慢を』
反対側に座る護衛に嗜まれ
アラリャス王子は
大袈裟にため息をついて、
八つ当たり気味に
「お前、結局見送りさえ、
婚約者は来ないじゃないか?
よっぽど嫌がれてるんじゃ
ないのか?魔力無しが。」
僕をせせら笑う。
反対側に座る僕の護衛が、
前屈みに反応するのを、
押さえて
「昨夜、婚約を解消した。
見送りの義務も無いから。」
窓に目を向けて応える。
「寂しいやつだな、結局お前との
婚約自体が義務だったんだろ」
「・・・・」
思っている事を全部口に出す
男なんだなと思う。
稀代の美貌と吟われる顔で
その口を歪ませて言う
皮肉が通じないと
分かると、
アラリャス王子は、
得意顔をしつこく湛えて
「昨日は本当に寝不足になるほ
どだったからな、丁度いい、
寝る!足置きを入れてくれ!」
護衛に命じ
馬車内で足を伸ばすスツールを
取り上げ、瞼を閉じた。
漸く
静かになった車内。
窓の外には、
下界に降りたウーリウ衛星島の
海原が、
朝日を受けて輝いている。
ゆっくりと進む
海沿いの馬車移動。
僕はこの時間を反って
こよなく愛している。
アディショナルタイム。
窓に、向き直る。
バリアロードは、
ウーリウ衛星島海岸の沖にある、
島~島~島~島の4つの島を
橋のように結ぶ
砂州で、
月に2回、
虚空に浮かぶウーリウ衛星島が
下界に降り
普段は海によって
隔てられている
カフカス大陸とウーリウ衛星島を
結ぶ天然の関所となる。
最大干潮時に
忽然と橋になる島道が
海に現れ、
島をつたいつつ
渡る砂州なのだ。
満潮時には4つの島。
干潮時には4つの陸繋島になる。
この神秘的な景観が
作られる現象。
天然の要害であることから
要塞地としても利用されている
のだが、
特にウーリウ衛島は特殊で、
カフカス大陸への進入は
ウーリウ衛島から延びる
バリアロードしか
出来ない事にある。
何故か、カフカス大陸の
他の海岸は
強力な結界が他国や他の船を
寄せ付けずに、
座礁転覆をさせるのだ。
「巡礼者がもう、列をなして」
遠く
島々を繋ぐ天然の橋を
白い装束を着る巡礼者が
列をなして歩くのが見える。
青い海に一本の、白い筋。
海に、、現れたバリアロードの、
遥かに向こうに
カフカス本土が見えた。
ふと窓の外。
下の視線で歩く巡礼者の首に
ホワイトコーラルの
ネックレスが見えて、
昨日、
拾い上げたカフスを
思わず撫でる。
自分の両袖には、しっかり
レインボーコーラルのカフス。
互いの色を贈り合う、
そんな
ごく普通な婚約者同士には
なれなかった僕達。
もう一度カフスを撫で上げた時、
「ん!」
彼女の『遠見』が
僕の姿を、捉えたのが
全身でわかった。
僕は婚約者である可能の視線を
窓から辿る。
!!!
僕達が幼い頃から
潜り泳いだ海辺。
干潮で海底遺構が顕になる
その回廊橋に、
マーシャ・ラジャ・スイラン嬢、
其の僅かに認められる
距離からでも容易に
彼女は僕の口を読める。
そう、
まるで僕の目の前で
膝を付き合わせているかの
距離まで『遠見』が
出来る。
「・・・、、、」
どうして
彼女は
バスケットを振り回している
のだろう、、
今日でさえ、
ギルドの若女将ロミに
作ってもらったのだろうか。
「・・・・」
僕は、口を引き締めて、
深く息をしながら
瞼を、閉じて思う。
昨日、あれを食べれば
良かった。
一瞬だけ頭に浮かべて、
目をゆっくり開ける。
「アラリャス王子、何か?」
さっきまで
無理矢理寝ていた相手が、
僕の顔を直視していた。
「別に。なにもないさ。」
拗ねた言い方をして
アラリャス王子は
顔に
羽根飾りのついた唾広い帽子を
被せて寝る続きに
入る。
「そうか。」
簡単に返事をして、
アラリャス王子を見る。
この
真に王族である男は、
本気で、誰かに焦がれたり
しないのだろうかと、
思った。
潮の香りが
今日は切ないぐらに薄く感じる。
バリアロードに入れば、
彼女の『遠見』さえ効きはしない
物言わぬ僕は、
彼女が
僕だけを見る彼女の
その視線に
すがりつくように
満たされながら
最後の最後、
バリアロードに入るまで
堪能する。
アディショナルタイム
~転移門、皇子叙情詩~
END
めざせ転移門第2章に
続き合流。
ウーリウ衛星島から
カフカス王帝領大陸に繋がる
『バリアロード』に向けて、
海沿いを豪奢な
6頭立て馬車が列なり走る。
僕は、チラリと目の前に
横柄に足を組み上げる、
アラリャス王子に
窓枠に肘を付いたまま
目だけを向けた。
「何故、お前なんかと一緒に
乗り合わせなんだ?勘弁して
しろよ。おまけに、未だに馬車
でしか乗り物はロードを走れな
いのを、どうにかしろよ!!」
文句ばかりほざく
アラリャス王子に僕は黙って
座るだけ。
『護衛の問題ですから、我慢を』
反対側に座る護衛に嗜まれ
アラリャス王子は
大袈裟にため息をついて、
八つ当たり気味に
「お前、結局見送りさえ、
婚約者は来ないじゃないか?
よっぽど嫌がれてるんじゃ
ないのか?魔力無しが。」
僕をせせら笑う。
反対側に座る僕の護衛が、
前屈みに反応するのを、
押さえて
「昨夜、婚約を解消した。
見送りの義務も無いから。」
窓に目を向けて応える。
「寂しいやつだな、結局お前との
婚約自体が義務だったんだろ」
「・・・・」
思っている事を全部口に出す
男なんだなと思う。
稀代の美貌と吟われる顔で
その口を歪ませて言う
皮肉が通じないと
分かると、
アラリャス王子は、
得意顔をしつこく湛えて
「昨日は本当に寝不足になるほ
どだったからな、丁度いい、
寝る!足置きを入れてくれ!」
護衛に命じ
馬車内で足を伸ばすスツールを
取り上げ、瞼を閉じた。
漸く
静かになった車内。
窓の外には、
下界に降りたウーリウ衛星島の
海原が、
朝日を受けて輝いている。
ゆっくりと進む
海沿いの馬車移動。
僕はこの時間を反って
こよなく愛している。
アディショナルタイム。
窓に、向き直る。
バリアロードは、
ウーリウ衛星島海岸の沖にある、
島~島~島~島の4つの島を
橋のように結ぶ
砂州で、
月に2回、
虚空に浮かぶウーリウ衛星島が
下界に降り
普段は海によって
隔てられている
カフカス大陸とウーリウ衛星島を
結ぶ天然の関所となる。
最大干潮時に
忽然と橋になる島道が
海に現れ、
島をつたいつつ
渡る砂州なのだ。
満潮時には4つの島。
干潮時には4つの陸繋島になる。
この神秘的な景観が
作られる現象。
天然の要害であることから
要塞地としても利用されている
のだが、
特にウーリウ衛島は特殊で、
カフカス大陸への進入は
ウーリウ衛島から延びる
バリアロードしか
出来ない事にある。
何故か、カフカス大陸の
他の海岸は
強力な結界が他国や他の船を
寄せ付けずに、
座礁転覆をさせるのだ。
「巡礼者がもう、列をなして」
遠く
島々を繋ぐ天然の橋を
白い装束を着る巡礼者が
列をなして歩くのが見える。
青い海に一本の、白い筋。
海に、、現れたバリアロードの、
遥かに向こうに
カフカス本土が見えた。
ふと窓の外。
下の視線で歩く巡礼者の首に
ホワイトコーラルの
ネックレスが見えて、
昨日、
拾い上げたカフスを
思わず撫でる。
自分の両袖には、しっかり
レインボーコーラルのカフス。
互いの色を贈り合う、
そんな
ごく普通な婚約者同士には
なれなかった僕達。
もう一度カフスを撫で上げた時、
「ん!」
彼女の『遠見』が
僕の姿を、捉えたのが
全身でわかった。
僕は婚約者である可能の視線を
窓から辿る。
!!!
僕達が幼い頃から
潜り泳いだ海辺。
干潮で海底遺構が顕になる
その回廊橋に、
マーシャ・ラジャ・スイラン嬢、
其の僅かに認められる
距離からでも容易に
彼女は僕の口を読める。
そう、
まるで僕の目の前で
膝を付き合わせているかの
距離まで『遠見』が
出来る。
「・・・、、、」
どうして
彼女は
バスケットを振り回している
のだろう、、
今日でさえ、
ギルドの若女将ロミに
作ってもらったのだろうか。
「・・・・」
僕は、口を引き締めて、
深く息をしながら
瞼を、閉じて思う。
昨日、あれを食べれば
良かった。
一瞬だけ頭に浮かべて、
目をゆっくり開ける。
「アラリャス王子、何か?」
さっきまで
無理矢理寝ていた相手が、
僕の顔を直視していた。
「別に。なにもないさ。」
拗ねた言い方をして
アラリャス王子は
顔に
羽根飾りのついた唾広い帽子を
被せて寝る続きに
入る。
「そうか。」
簡単に返事をして、
アラリャス王子を見る。
この
真に王族である男は、
本気で、誰かに焦がれたり
しないのだろうかと、
思った。
潮の香りが
今日は切ないぐらに薄く感じる。
バリアロードに入れば、
彼女の『遠見』さえ効きはしない
物言わぬ僕は、
彼女が
僕だけを見る彼女の
その視線に
すがりつくように
満たされながら
最後の最後、
バリアロードに入るまで
堪能する。
アディショナルタイム
~転移門、皇子叙情詩~
END
めざせ転移門第2章に
続き合流。