ちょっと、ちょっと

 「待って下さい、急にそんなことを言われてもスーツだって一着も持ってません」

 それに

 「私は美人でもなければ、身長も低い、経験もありません。何かの間違いでは?」


 目の前の男性は面倒臭いと顔に出し、あからさまに大きな溜息をつく。



 「鈴木さん秘書検定を持ってますね」

 は?

 秘書検定?


 学生時代から誰にも相手をされず、教科書が友達で勉強が家族だった。だからこそ、取れる資格を色々とチャレンジしてきた。


 すっかり忘れていた!


 なんで今さら何だろう?


 「わたしには秘書はやっぱり無理です。もう、覚えてませんし、この部署が私には合ってます。」


 「正式な辞令と言ったはずですが?嫌なら仕方ありません」


 分かってくれたみたいでホット胸を撫で下ろす。



 「では、全員辞表を提出してください」


 私を含め皆の顔が青くなっていく。


 な…な…な…なんで?辞表?


 意味分からない?



「秘書へ移動を拒否するならここは潰します、貴方の返答次第です」


 なんでそこまでするの?



 

 背中には後ろから突き刺さるような視線がまるで剣、こんな感覚覚えがある。



 

 いつだっけ、思い出そうとするとキーンと頭に響きクラっとしてくる、頭を左右に振り思い出すだけ無駄。