なぜか躰に力が入らない。背もたれにしているモノは温かくて、強かで。あたしを抱き込んでいるようだった。昏くて何も見えないのは目隠しをされているからだと、ようやく気が付く。

「お目覚めか、お姫サマ?」
 
身じろいだあたしの耳許に聴きなれた声が囁いた。椅子かどこか、時雨の両脚の間に座らされている。意識はあるのに口も上手く回らない。・・・変。なに・・・これ。

「飾っておくだけでも可愛いと思いませんか」

叶が誰かに話しかけ、時雨の吐息があたしの肩口に埋まる。

いつの間にか着替えさせられてもいた。胸元から腿にかけて薄くて柔らかい布地をまとった感触。肩から首筋、うなじ、やんわり唇が這うのを感じながら、二人以外に誰かいることに羞恥すら憶えない自分。

「啼かせるともっと可愛いんですよ」
 
「非売品なんじゃねぇのか」

 野太い男の声。
 
「ええもちろん。・・・ですが少しくらいならお聞かせします。特別なお客様には」

穏やかな。でも温度と感情が抜けているような。叶なのに叶じゃない気がした。