中に入ると別荘みたいな造りで。吹抜のリビングは家具がモノトーンの色調で揃えられ、バーカウンターもあった。大きなテラス窓にはカーテンはなく、デッキが繋がっているように見える。

ここも叶の持ち物なら紙宝堂とはかなり趣が違う。『人形堂』と時雨は言ったけれどお店ではなさそうだ。

「スズ。こっちだよ」

叶が優しい笑みで、あたしを奥の扉に通した。一転して北欧風のベッドルーム。テレビ台やチェスト、もちろんベッドもアンティーク調。・・・ここは叶っぽい。

「こんな遅い時間に“残業”でごめん」

言いながらあたしをベッドの端に座らせ、叶も横に腰掛けた。肩を抱き寄せられたから、もたれてしまう。

「これから来客があってね。商談が成立するまでの間、スズにもそこにいて欲しいんだ」

「・・・いればいいの?」

「時雨が傍にいるから心配ないよ、大丈夫」 

思わず上げた顔。視線がぶつかった。揺れない眸。今の貴方には迷いが欠片もない。
 
「スズは何も考えなくていい。僕が仕事を終えるまでちょっと君を借りる、それだけだから。・・・怖い?」

首を横に振る。
 
「ちょっと緊張はしてるけど・・・」
 
「じゃあ一緒にお風呂に入ろうか」 

 にこりと叶が笑った。

「ここのは大きいから二人でゆっくりね」