今まで幽霊と言えばテレビの見過ぎのせいか貞子のイメージが強かった。しかし、彼女のような幽霊も存在しているらしい。ちゃんと身なりが整えられていて、声もはっきりと聞こえてくる。

 私の目の前にいる彼女は、作り物の映像でも、生きている人でも、目の錯覚でもない。

 シンプルに考えて私は今“心霊体験“をしているのだ。


「私も部長なんです。あまり部員はいないんですけど」
「あら、そうなの?ふふ・・・私たち、似た者同士ね」

あまりにも自然と笑うものだから一瞬言葉に詰まってしまった。

「そう、ですか・・・」

 本当に死んでいるのかともう一度足元に視線を向けるも、やはりスカートから足は見えない。

 2年間と半年程通ってきたが、今までこの高校にそういう噂話は一切聞いたことがなかった。誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえてくる話やトイレの花子さんのような某怪談話とは縁もない場所だと思っていたのだが。


 じゃあ何故彼女はまだ日も落ちていない学校の美術室に姿を現したのだろう?

 その考えに行き着いた時、最初彼女が言っていた事を思い出す。

 確か「貴女にお願いがあるの」と小坂宏海さんは言っていたのだ。

「あのー・・・それで、お願いとは」

 意を決して私は彼女に尋ねてみることにした。

「あぁ、そうだったわね。時間がないのにもったいないことしたわ、ごめんなさい」

「はしゃぎ過ぎてしまったわね」と恥ずかしそうに笑った彼女。

 そしてその後、こう続けた。

「───実はね、好きだった人の名前と顔を思い出したいの」と。