「後悔しているんでしょう?気持ちを伝えられなかったこと、宏海さんも後悔しているん、です」


 先生の質問に答える余裕も時間もない。

 斜め後ろを見ると宏海さんは嬉しそうに涙を流していた。

 その反応からするとやっぱり先生で間違いない。


「小泉、落ち着け。何を言っているのか全く理解できない。どうしてそのことを知っている?ちゃんと説明してくれないと分からない、頼むから」


 嬉しいはずなのに、とても悲しい。

 こうして会えたのに、先生の目には彼女が映ることはない。


「だから、えっと、宏海さんが、今、」


 やるせない気持ちが絶えない。次第に顔が俯いていく私に宏海さんは声を掛ける。


「ありがとう、千尋ちゃん。思い出したわ。顔も名前も何もかも全部。あなたのおかげよ。まさか会えるだなんて思ってもいななかった」
「お願い待って、宏海さん、先生に伝えたいことがあるんでしょう?!」


 目の前で繰り広げられている私たちの様子に藤村先生は困惑した様子だった。それでもなりふり構わず私は宏海さんに訴えかける。

「消えちゃダメですよ、お願いだから、」
「ごめんね、もう時間がないの。これで十分だから。ありがとう」
「そんな・・・!せっかく会えたのに・・・!」

 涙が溢れてくる。せっかく目の前にいるのに話せないなんて、触れられないなんて。

 会えたのにそんな結末じゃ、きっと先生だってまた後悔するはずだ。

 何年も経った今だって、彼女の命日にその絵を眺めているくらい、それくらいに強く深く思っているんだから。