「……お邪魔します」

玄関口で立ち止まり、少し緊張したように言う先輩。

その前には、こげ茶の髪を後ろで束ねた、エプロン姿の女性がいた。

「……母さん」

くりくりとした黒の瞳に好奇心を湛えたこの人は、俺の母親だ。

……出来るだけ二人にして、って言っておいたのに。何でここにいるんだ。

俺の内心のことなんてつゆ知らず、母は吞気そうに尋ねる。

「まぁ、貴方が杏里ちゃん? 息子からよく話は伺っているわ! 悠希に良くしてくれてありがとう。何もない家だけど、ゆっくりしていってね」

「はい……、あ、これ良かったら」

彼女が手に持っていたハンドバックの中から小包を出す。外装から判断するに、どうやらお菓子らしい。