「今日は、ありがとうございました」

「いえいえ! また来てね!」

母とそんな挨拶を交わし、先輩は家を出る。

「駅まで送ります」

「ありがと、悠希」

駅の雑踏の中に消えていく先輩を、角を曲がり、見えなくなるまで俺は目で追い続けた。

――ああ、やっぱり前言撤回だ。

先輩を俺の手で囲いたいなんてそんなこと出来ない。

だって。

雑踏の中にいても見つけられるくらい。

離れていても、彼女のことが頭から離れないぐらい。

先輩に、惹きつけられ、逃げられないぐらい好きになってしまっているのは、俺の方なのだから。