口だけが動き、謝罪を口に出した瞬間、くるっと彼女が振り返った。

そうして、『先輩』と言おうとしていた口を塞がれる。

「……杏里、でしょ?」

そう言ってニヤッと笑う杏里に、目が釘付けになる。

今、口に当たっていた、感触は。

すっと一点に視線が定まり、赤く艶のあるそれに意識が吸い寄せられた。

――ああ、敵わない。

この人は、どれだけ俺を振り回せば。