「……名前で、呼べってことですか?」

結果、彼女の言葉を翻訳して返すだけになってしまう。上手く、頭が回っていない。

「……そう」

そう言った後、ふいと目を逸らした彼女。

俺は完全に反対側を向いてしまった彼女の背中を見つめていた。

「だって、付き合って九か月も経つのに。先輩、先輩、って……。彼氏らしくないもん」

もごもごとあまり大きな声で言っている訳ではないのに、耳がはっきりとその音を拾う。

「今日は、私の好きなように動いてくれるんでしょ。だったら、名前、呼んでよ」

若干、震える声でそう言い切った後、彼女は黙った。

向こうを向いた彼女の耳が、ほんのりと赤く色づいている。

もう既に自制心など効かなくなっていた。