「かからないどころか、私が鏡の裏の空間に気付いたことで彼は焦ったようです。私が鏡をずらした瞬間、突然暗闇から飛び出してきて突き飛ばされましてね……」

「頭を打って気絶したってか」

鷹峯は嫌味をたっぷり込めて拍手する。

「御明答。そのまま鏡の裏に引きずり込まれて、気付いた時にはガチガチにロープで縛られていました。他にも至る所に秘密の通用口があって、彼は神出鬼没の福の神としてたびたび客の前に現れては消えるという演出をしていたんです。ちょっと内部を歩いてみたんですけど、もう迷路みたいで、抜け出すのに苦労したんですよぉ〜」

鷹峯が突き出した両手首にはくっきりとロープの痕が赤く残っていた。彼は忌々しそうにそれを摩ると、やれやれを首を振る。

「ほんっとにどーしてくれるんですかねぇ。いくら仕事熱心だからって、クチコミ狙ってるのか何なのか知りませんけどカップル成立のために客を拉致監禁って……タダで済むと思ってますぅ〜?」

怯える母子を目の当たりにし、鷹峯は嗜虐的な笑みを顔に貼り付けた。口元は三日月を形作っているが、細められたその目は一つも笑っていない。鷹と言うより獲物を前にした蛇そのものだ。

「ひ、ひぃっ……お、お許しをっ……!」

「ママぁ〜っ!」

いたいけな母子を怯えさせて楽しむ鷹峯に、恭平は溜息を吐く。しかし今回ばかりは色々と迷惑を被ったのは事実だ。しばらくはやつの好きにさせておこう。

何より。

「ごめん、お前の隠したかった秘密……。こんな形で知ってしまって……」

未だ目を覚まさない雛子の前髪を一つ払ってやる。せめてこの場にいたのが鷹峯と恭平だけなのがせめてもの救いだ。

(やっぱりアイツはどうも、彼女の過去に関して何か知っているみたいだからな……)

恭平は依然母子を威嚇して嬲って楽しんでいる鷹峯に、ちらりと視線をやった。





その後、逃げるように出ていった瀬山親子と入れ違いで他のメンバーもそれぞれ部屋に戻り、事件は一件落着となった。その日は夜も遅く、敷かれた布団に横になると皆あっという間に眠りに落ちた。