雛子が顔を強ばらせ、自身の腹部へと視線を落とす。



「雨宮さん、貴女はこの傷、いつどこで負ったものか覚えていますか?」
















まずいっ! 皆離れろっ!!!!





爆発音。頬を撫でる熱風。


視覚も聴覚も、砂嵐のようなノイズで掻き消される。





「あっ……」




雛子の顔から血の気が引いていく。





「貴女がいつも内服している薬はなんですか? それは何の為に飲んでいますか? 貴女の御両親と祖父母は今、何をされているんです?」



「あ、あ……それはっ……」







ねぇ、お父さんとお母さんは? おじいちゃん、おばあちゃんは!?




同じ病院に運ばれてるんでしょ? ねぇ答えてよっ────!!








「はぁっ……あっ、はっ……」



雛子の顔が苦しげに歪み、床へと崩れ落ちる。


「まずい、過呼吸だ……! もうやめろっ! 傷なんてどこにもっ……」


鷹峯の足元に蹲った雛子に駆け寄りながら、恭平は目を見開く。



雛子の胸部から腹部にかけて、巨大で歪な傷痕がまるで獲物を絡め取る蜘蛛のように大きく伸びていた。



先程まではなかった、否、見えなかった傷痕が。





「もう一度聞きます。雨宮さん、この傷、どこで、どうやって、負ったのですか?」


「やめ、てっ……! やめてっ、やめてっ……!!!!」


「もういい鷹峯っ! やめろっ!!!!」



恭平は雛子を腕の中に抱き竦めた。苦しげに上下する背中を、必死に摩る。



「はぁっ……ぜん、ぶ……思い、出したっ……」



雛子は苦しそうに、自嘲を込めて少しだけ笑みを浮かべた。



「中学生の時、父親の運転する車が事故に遭って……両親も祖父母も、その事故で……」



「そんな……」


初めて知る雛子の過去に、恭平は頭を殴られたような衝撃で言葉を続けることができなかった。


「私だけ生き残ったけど……今も後遺症とPTSDで……くすり、手放せなくてっ……」


しゃがみ込む雛子と視線を合わせるように鷹峯も座り込み、そっと頬に手を添える。


「よく、思い出しましたね。ずっと忘れていたかった、辛い思い出を」


「っ……」


雛子の大きく見開かれた瞳から次々に涙が溢れた。


「どうして私……忘れていたんでしょうか……? 忘れられるわけないのに……記憶も……この、痛みも……忘れたら、駄目、なのに……」



止めどなく大粒の涙を零しながら、やがて雛子の瞳はゆっくりと閉じられ、身体から力が抜けていった。


「お、おいっ……」


雛子の身体を受け止め、恭平は戸惑い気味に声を掛ける。


「大丈夫、気を失っただけです。薬も今夜は飲んでいなかったのでしょう? 離脱症状もありそうなので起きたら飲ませます」


鷹峯は一度、雛子に柔らかな眼差しを向けたあと、すぐにいつもの胡散臭い笑みを張りつけ陰の湯へと続く扉に目を向けた。


「さてと、では種明かしをしてもらいましょうか。入って下さい」


「は……?」