「ああ……今日も可愛いね。まるで白衣の天使だね子猫ちゃん」
『白衣の天使』という言葉は先日退職してしまった雛子の先輩、清瀬真理亜の代名詞だった。雛子も憧れていた白衣の天使。それなのに、これほどまでに嬉しくないのは何故だろう。
「あ、あの……もう出棟する時間なので……」
やたらとくっつきたがる塔山を何とかいなしながら着替えやらルートキープやらを済ませ、雛子は彼をオペ室に案内しようとしていた。
塔山はやはり雛子の腰に腕を回している。
「もしかしたらこれが今生の別れかと思うとね……なかなか君から手が離れないんだよ」
「ないですないです! 小暮先生は優秀な整形外科医ですから!」
無理矢理車椅子に乗せて病棟を出る。オペ室に着くまでの間、彼は延々と「来世では愛を築こうね」「たとえ何度生まれ変わろうとも」など歯の浮くような台詞を口にしていた。
『たかが抜釘で大袈裟な』と口走りそうになり、雛子は慌てて口を噤む。
(私達にとっては大したことなくても……患者さんにとっては『たかが』ってことないよね……)
こう見えて彼もきっと不安なのだろう。雛子は塔山の心の内に思いを馳せ、そっと彼の手を握る。
「塔山さん、絶対大丈夫ですから。どうか先生と私達を信じてください」
雛子の言葉に、塔山は一瞬意を突かれたように目を丸くしたあと、朗らかに笑った。
「そうだね……僕の命、安心して君達に預けるとしよう。もしも手術が無事に終わればその時は……僕とデートしてくれっ……!」
「はい! その意気です! だから頑張ってくだ……ええっ!?」
気づいた時には、彼は笑顔で前室の奥の扉へと消えていくところだった。
「えっ、え、えええぇぇぇっ!?!?」
「……あの、送りもらっても良いですか?」
オペ室の看護師から白い目で見られていることすら、もはや雛子には気にしている余裕がなかった。
『白衣の天使』という言葉は先日退職してしまった雛子の先輩、清瀬真理亜の代名詞だった。雛子も憧れていた白衣の天使。それなのに、これほどまでに嬉しくないのは何故だろう。
「あ、あの……もう出棟する時間なので……」
やたらとくっつきたがる塔山を何とかいなしながら着替えやらルートキープやらを済ませ、雛子は彼をオペ室に案内しようとしていた。
塔山はやはり雛子の腰に腕を回している。
「もしかしたらこれが今生の別れかと思うとね……なかなか君から手が離れないんだよ」
「ないですないです! 小暮先生は優秀な整形外科医ですから!」
無理矢理車椅子に乗せて病棟を出る。オペ室に着くまでの間、彼は延々と「来世では愛を築こうね」「たとえ何度生まれ変わろうとも」など歯の浮くような台詞を口にしていた。
『たかが抜釘で大袈裟な』と口走りそうになり、雛子は慌てて口を噤む。
(私達にとっては大したことなくても……患者さんにとっては『たかが』ってことないよね……)
こう見えて彼もきっと不安なのだろう。雛子は塔山の心の内に思いを馳せ、そっと彼の手を握る。
「塔山さん、絶対大丈夫ですから。どうか先生と私達を信じてください」
雛子の言葉に、塔山は一瞬意を突かれたように目を丸くしたあと、朗らかに笑った。
「そうだね……僕の命、安心して君達に預けるとしよう。もしも手術が無事に終わればその時は……僕とデートしてくれっ……!」
「はい! その意気です! だから頑張ってくだ……ええっ!?」
気づいた時には、彼は笑顔で前室の奥の扉へと消えていくところだった。
「えっ、え、えええぇぇぇっ!?!?」
「……あの、送りもらっても良いですか?」
オペ室の看護師から白い目で見られていることすら、もはや雛子には気にしている余裕がなかった。