静かな部屋の中に、真理亜の嗚咽だけが響いていた。

「ごめんなさいっ……」

恭平に凭れたまま、真理亜は消え入るような声で懺悔した。

「もう二度とこんなことは繰り返しちゃ駄目だって……分かってるのに……」

恭平は相槌を打つでもなく、黙って真理亜の言葉を聞く。

久しぶりに、唯の屈託のない笑みを思い出していた。

「やめられないのっ……恭平が誰かに取られそうになったら……そいつを貶めて私を見て欲しくなる……そして皆から賞賛されるたびにそれが癖になって止められなくなるのよっ……いつもいつも、次はどんなコトしようかそれで頭が一杯なのっ……!」


真理亜は両手のひらを見つめる。

妹の命を奪い、看護師になってからも恭平が自分以外の誰かに目を向けるたび、患者を脅かしてきた罪深い手。



「……お前ももう、充分苦しんだだろ」


恭平が、独言のように小さく呟いた。


「家庭環境や唯のことで、お前はずっと身も心もボロボロだった。でもお前は、他人に頼るのも甘えるのも下手くそだった」


恭平の手が真理亜の頬を包み、顔を上げさせる。真剣な瞳が、真理亜の泣き濡れたそれと視線を合わせた。


「……もうそろそろ、真理亜自身に目を向けてやれよ」


「っ……」


助けてくれなかったくせに。あなたが私に目を向けてくれなかったのが悪いのに。


真理亜の心がまた、言い訳を始めそうになる。


(違うわ……)


恭平の真剣な瞳の中に、不安げな顔の真理亜が映り込んでいた。


「私を一番蔑ろにしてたのは、私……」


真理亜自身、気付いていなかったこと。


「恭平は、気付いてくれてたのねっ……」


急に感情が溢れ出した。恭平の胸に顔を埋め、真理亜は初めて声を上げて泣いた。

恭平の大きな手が、真理亜の頭をまるで小さい子どものように撫でる。


「唯のことを引きずっているのは分かっていた……仕事にも一生懸命だし、無理をし過ぎなのはいつも心配してた……」


でも、と恭平は続ける。


「唯の時みたいな事を……今もして、そこまで苦しんでいるなんて、気付かなかった……悪かった」


恭平の謝罪に、真理亜は徐に顔を上げた。


「……やっぱり優しいのね、恭平」


恭平から唯を奪ったのは真理亜なのに、その事を知っても彼は真理亜を責めたことは一度もなかった。



「ねぇ、私の事抱いてって頼んだら、抱いてくれる……?」



この期に及んでまだ恭平の優しさに甘えるなんて、自分はなんて狡い女なのだろう。



「……それでお前の気が済むのかよ」



「済むわよ……心は手に入らなくても、その時だけは恭平が私のモノになる……それだけで満たされるの……」



そっと唇を合わせ、だんだんと深くしていく。


「……そんな事して虚しくねぇの」



「あはっ……酷いこと聞くのね」



真理亜は綺麗に笑ってみせながら、自身のブラウスのボタンへと手をかけた。